食品業界と聞くと「身近な食品や飲料などのメーカー」をイメージしがちです。
食品業界に漠然と興味を持っている学生の皆さんには、
「どのような企業があるのかわからない」
「具体的にどんな仕事内容で、どういった魅力があるのだろうか?」
「そもそも食品業界の現状は?今後も伸びる業界なの?」
などの疑問を抱いている人も少なくはないでしょう。
今回は、食品業界の構造や主な仕事内容、現状と課題、今後の予想などを解説し、 志望動機の書き方のポイントもご紹介します。
目次
この記事の監修者
doda新卒エージェント事業部
キャリアアドバイザー
田中 愛友美さん
大学卒業後、スポーツイベントの企画・運営会社へ入社を経て、ベネッセi-キャリアへ入社。
IT領域や理系出身者のキャリアアドバイザーを得意とする。
丁寧なカウンセリングを通して、ご自身では言語化が難しい強みを引き出し、可能性を広げるアドバイスを心がけている。
食品業界の構造を解説
食品業界の企業は、身近な食品や飲料を製造する加工食品メーカー以外にもさまざまな企業が携わっています。 消費者の元に商品が届くまでの流れや、それぞれの立場について解説するので、まずは全体の構造・仕組みを把握しましょう。
食品業界の仕組み
まずは、身近な加工食品が消費者の元に届けられるまでの仕組みを紹介します。 加工食品を製造するのは「加工食品メーカー」で、その製造には原材料が必要です。
そのため、 農家をはじめとする「第一次産業」を手掛ける人々や企業、小麦粉・調味料などの原材料を製造する「食品原料メーカー」から原材料の仕入れを行います。 その際に、取引の仲介を行うのが「商社・卸売業者」です。 また、製造した商品は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの「小売店」を通じて消費者の元に届けられますが、ここでも「商社・卸売業者」が仲介を担っています。さらに、加工食品や食品の原材料は、外食産業の企業にも提供されています。
食品業界全体には、このような仕組みがあることをまず理解しておきましょう。以降で、これらの関連事業者について解説します。
第一次産業
第一次産業とは、自然界において作物を作ったり、採取したりする産業のことを指し、野菜・穀物の生産や酪農・畜産などを手掛ける農業、木材の確保や森林保全などを行う林業、魚や貝の採取や養殖などを行う漁業が挙げられます。 食品業界における「第一次産業」は、農業、漁業を手掛ける人々や企業を指すと考えてよいでしょう。 食品の製造・加工において、原材料の生産・提供を行う「第一次産業」は、必要不可欠といえます。しかし、現在は少子高齢化が進み、人手不足や後継者がいないなどの問題が深刻化しています。
食品原料メーカー
食品原料メーカーは、原料の製造を手掛け、加工食品メーカーに提供しています。 例えば、小麦から小麦粉を生産する企業もあれば、即席麺の粉末スープやデザート商品などに使われるソースなどを製造している企業もあります。
また、企業によっては、食品原料だけでなく、自社商品を製造して消費者にも提供しているケースや、サプリメントなどに使われる素材の製造を行っているケースも。
最近では、大豆ミートなど植物性由来食品の新素材の開発などにも注目が集まっています。
商社・卸売業者
商社・卸売業者は、第一次産業や食品原料メーカーと、加工食品メーカーの間に立ち、食品原料の取引仲介を行います。 また、加工食品メーカーと小売店の間に立ち、商品を市場に流通させるための仲介を行うケースもあります。
大規模な食品原料の仕入れや海外からの食品原料調達などを行う場合は、商社が手掛けるケースがほとんどでしょう。一方、卸売業者では、例えば、業務用調味料などの専門領域に特化していることが多く、飲食産業の企業との取引を仲介するケースもあります。
加工食品メーカー
加工食品メーカーには、菓子や即席麺、レトルト食品、冷凍食品、乳製品などの 加工食品を製造するメーカーに加え、清涼飲料水やアルコール類などのメーカー、塩・砂糖・しょうゆ・みそをはじめとする調味料や小麦粉などを製造するメーカーもあります。
また、消費者に向けた商品に加え、外食産業に提供する商品の製造や、他社ブランドの製品を製造する「食品OEM 」などを手掛けているケースもあるでしょう。
小売店
スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどがこれに当たります。小売店の役割は、加工食品メーカーが製造した商品を仕入れ、消費者へ提供することです。仕入れの際には、商社・卸売業者が仲介を行うことが基本となっていますが、加工食品メーカーから直接仕入れを行うケースもあります。
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食品業界の主な仕事内容
食品業界の代表的な職種と主な仕事内容をご紹介します。気になる職種の仕事について確認してみましょう。
研究・開発
食品業界では、 食品製造に役立つ研究や、それらの成果を実際の商品に応用していくための研究を行います。
また、開発においては、新商品や商品リニューアルなどの企画に合わせて、食感、香味、見た目なども含めた開発を担当します。コストも踏まえて原料・添加物を取捨選択し、目指す商品を実現できるレシピを作成したら、工場内で大量生産ができるレシピ設計に落とし込みます。さらに、実際の製造現場を稼働させた際に、状況に応じたレシピの修正も行います。
生産技術
製造現場となる工場において、 安定的かつ効率的な量産ができる体制を構築します。 また、安全面や衛生面にも配慮した体制づくりが求められます。生産ラインを構築するため、研究・開発や企画開発の部署との連携や、人員の配置なども行います。
海外に製造拠点を有する食品メーカーの場合は、海外の生産ラインの構築などに携わる可能性もあるでしょう。
生産管理
自社の販売計画や顧客からの受注量などを踏まえた生産計画を立て、納期管理や在庫管理を行うことで、 生産量や生産スケジュールを適正に管理します。
特に、食品業界の場合は、消費期限のある食品を扱うため、ロスを最小限に抑える管理能力も求められます。また、工場で働く従業員への指導も手掛けることがあります。
品質管理・品質保証
商品の品質や安全性を管理するために、 原料や最終工程を終えた商品の調査・分析・評価を行います。 工場の衛生管理調査や、製造現場の従業員の衛生指導なども手掛けます。
このほか、商品の成分表示などが正しくラベルに記載されているかを確認したり、消費者からのクレームに対する原因の調査や今後の対策の立案などを行ったりすることもあります。
企画開発・マーケティング
消費者のニーズを捉え、新商品の企画や商品のリニューアルなどを手掛ける仕事です。 市場調査を行い、マーケットを分析して商品の企画を立案し、開発部門と連携しながら実現に向かいます。また、消費者に向けた販促の企画などを行うケースもあります。
営業・販売促進
顧客に向けた商品の提案を行い、受注に結び付けます。 食品原料メーカーは、原料の仕入れを仲介する商社や卸売業者に向けた営業提案を行います。生産計画を踏まえた長期的な受注に結び付けるため、長期にわたって信頼関係を維持することが求められます。
加工食品メーカーの場合は、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、飲食店、卸売業者などに向けた営業提案を行います。小売店の店舗における売り場を拡大するために店長や現場の担当者との信頼関係を築き、棚作りの提案を行います。
また、小売店や飲食店の売り上げアップに役立つ販促企画を自ら考え、店長やオーナーと一緒に企画を実現していきます。チェーン展開する企業を顧客とする場合は、バイヤーに向けた大規模な商談を担当するケースもあります。
事務
人事、広報、経理、総務などの管理部門で、それぞれの領域における事務業務を手掛けます。 企業によっては、営業職を補佐し、受発注の書類作成などを行う営業事務などの職種もあるでしょう。
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食品業界の仕事の魅力
食品業界の仕事には、 多くの人が知っている身近な商品に携われる魅力があります。 加工食品メーカーはもちろん、食品原料メーカーの場合でも、自分が携わっている原料が身近な食品に使用されるケースが多くあります。周囲の人が購入していたり、スーパーマーケットなどで販売されている様子を見たりすることで、やりがいや誇らしさを感じることができるでしょう。
また、加工食品メーカーで働く場合は、消費者に直接届ける商品を製造しているので、食生活や子どもの食育、食の安全など、多様な角度から商品の企画や提案をしていけるやりがいもあります。
さらに、海外展開をしている企業の場合は、「グローバルに活躍し、成長できる」「世界各地で知られている商品を扱うことに誇りを感じる」「スケールの大きな仕事に魅力を感じる」という人もいるでしょう。
食品業界の現状と課題
食品業界が抱えている現状や課題について解説していくので、業界研究の参考にしてみましょう。
食品業界の市場規模
農林水産省の調査(※1)によれば、2021年の食品産業の国内生産額は91兆720億円(概算)で、全経済活動における割合は8.8%(概算)となっています。また、2022年の食品産業の就業者数合計は808万人で、就業者総数に占める割合は12.0%に上っています。
人の生活に欠かせないものを生産する食品業界は、 日本の経済において重要な存在であるといえるでしょう。
また、2023年に財務省が発表した「年次別法人企業統計調査(令和4年度)」(※2)によれば、食料品製造業全体の売上高は、2019年から2021年までは前年割れが続いていましたが、2022年には前年比9.1%増の45兆4120億円となり、大きく伸びています。
食品業界の課題
食品産業の国内市場規模は、少子高齢化に伴う人口減少の影響によって、縮小していくことが見込まれています。農林水産省が2023年に発表した「食品産業をめぐる情勢」(※1)」では、「総世帯の食料支出総額の推移を品目別にみると、生鮮食品への支出額が2040年には4分の3程度(100から75)に減少」という予想を立てています。また、「加工食品への支出額は増加(100から111)するが、一人当たり支出額が支出総額を上回っていることから、加工食品の消費量は減少する見込み」としています。
今後は、さらなる人口減少によって急速に需要が減少していくため、食品産業には新たなビジネスの創出が重要な課題となるでしょう。
一方、日本における食料自給率(カロリーベース)は38%で、先進国の中で最低の水準となっており、食品業界の原料調達も輸入に頼らざるを得ない状況があります(※2)。
昨今では、世界的な異常気象による不作や海水温の上昇による不漁、新興国の経済成長や人口増加に伴う需要拡大、油価格の上昇など、さまざまな面が影響を与えています。また、円安による為替相場の変動にも大きな影響を受けているため、多くの食品業界の企業は、 原料調達のコストや手法に苦しんでいる といえるでしょう。食品業界の企業にとって、安定的な原料調達は経営上の重要な課題となっています。
食品業界の今後
「食品業界の10年後、20年後はどうなってしまうのか」「将来性はあるのか」と不安や疑問を抱えている学生の皆さんに向けて、今後の展望についてご紹介します。
少子高齢化からの海外展開
先にご紹介した通り、日本の人口はこれからも減少し続けていくことが見込まれています。しかし、世界においては、今後もアジアを中心に人口増加が予想され、世界の農産物市場もそれに伴い拡大する可能性が高いとされています。
農林水産政策研究所が発表した「世界の飲食料市場規模の推計」(※1)では、「2030年の34カ国・地域の飲食料市場の規模は、GDPと人口の見通しを踏まえると1360兆円」とし、2015年時点と比較すると1.5倍にも伸びると推計しています。
また、前出の「食品産業をめぐる情勢」(※2)によれば、2022年の農林水産物・食品の輸出額は1兆4,140億円で、うち加工食品は5,051億円を占めていました。
日本の食品業界のビジネスが持続的に発展していくためには、世界の食市場、特にアジアの飲食料市場を獲得していくことが重要とされています。今後は各社がグローバルな事業展開にさらに注力することが鍵になるでしょう。
(※2)農林水産省大臣官房新事業・食品産業部「食品産業をめぐる情勢」
人口減少による人手不足への対応
近年、食品製造業においても人手不足の問題が深刻化しています。今後も労働人口の減少と高齢化は続くため、 働き手を確保するために、労働環境の改善や外国人労働者の受け入れが課題とされています。
現在、従業員の安全と健康確保を図る取り組みが推進され、さらに、外国人労働者の採用・育成を支援する国の制度「技能実習」「特定技能」などの制度活用に取り組む食品業界の企業も増えつつあります。
また、農林水産省では、ロボットやAI、IoTなどの先端技術を取り入れて生産性を向上させる取り組みを推進し、実証実験なども進めています。
フードテックへの取り組み
世界各国における人口増加による食料需要が増大している点や、国際社会全体でSDGsに取り組んでいる背景などもあり、 食品業界でも環境負荷の低減や多様な社会課題を解決していくことが求められています。 また、消費者においても、健康志向や環境への取り組みに対する関心などの高まりが見られ、価値観は多様化しています。
こうした背景の下、多様な食の需要への対応や社会課題の解決に役立てていくため、フードテック(※1)を活用した新たなビジネスの創出への関心も高まっており、フードテック分野への投資も増加している状況にあります。
2020年には、国と研究機関、民間企業の連携によって「フードテック官民協議会」も立ち上げられました。「フードテック推進ビジョン」(※2)として「世界の食料需要の増大に対応した持続可能な食料供給を実現する」「食品産業の生産性の向上を実現する」「個人の多様なニーズを満たす豊かで健康な食生活を実現する」の3つを目指すテーマとして掲げています。
(※1)フードテック(FoodTech=「Food」と「Technology」を組み合わせた造語)とは、食に関する課題解決にAIやIoTなどの最先端テクノロジーを活用し、新しい形の食品開発や調理法などに役立てていく技術のことを意味する。
(※2)フードテック官民協議会「フードテック推進ビジョン」
食品業界の企業ランキング
食品メーカーの業績ランキングと、世界の食品メーカー上位に入った日本の食品メーカーのランキングを紹介します。
食品メーカーの業績ランキング
企業名 | 売上高 | |
1位 | 味の素 | 13,591億円 |
2位 | 日本ハム | 12,598億円 |
3位 | 山崎製パン | 10,770億円 |
4位 | 明治ホールディングス | 10,622億円 |
5位 | マルハニチロ | 10,205億円 |
※2023年に提出された各社の有価証券報告書を基に作成
2023年の世界食品メーカートップ100にランキングされた日本の食品メーカー上位5社
企業名 | 食料品売上高(100万ドル) | |
21位 | Suntory(サントリー) | 21,191 |
26位 | Asahi group(アサヒグループ) | 17,916 |
61位 | NH Foods(日本ハム) | 8,589 |
63位 | Kirin Holdings(キリン) | 8,384 |
65位 | Ajinomoto(味の素) | 8,073 |
※2023 Top 100 Food & Beverage Companiesをもとに作成
食品業界に向いている人とは?
学生の皆さんの中には「この商品が好き」「幼い頃からよく食べていた」「食べることが好き」などの理由で食品メーカーを志望する人もいます。しかし、入社後は消費する側ではなく、商品を提供する側の視点が求められるため、個人として「好き」というだけでは通用しないでしょう。
そのため、 食に関わる仕事を通じて、人々や社会にどのような価値を提供したいのか、どのようなことを実現したいのかを明確に持っている人には向いている業界といえます。
食品業界の志望動機・自己PRの書き方ポイント
食品業界を目指すみなさんに向けて、志望動機と自己PRの書き方についてポイントを解説します。
志望動機においては、商品やメーカーのファンで終わってしまわないことが重要です。学生様からは「好きな商品を誇りをもって展開したい」というお気持ちを伺うことも多くあります。しかし、加えて「なぜ食品業界なのか」「興味を持った理由」をきちんと説明し、どのように商品展開したいか、社会に影響を与えたいかなど、「社会軸」を意識していただけると幸いです。
食品業界の志望動機・自己PRの書き方ポイント
食品業界においても「どの職種を目指すか」を意識した自己PRができるとよいでしょう。例えば、職種ごとにアピールすると効果的なのは、下記のような内容です。
- 営業職:目標達成志向、粘り強さ、主体性
- 研究職:忍耐力、成果が出ない時も粘って行動し続けられること
- 生産技術、品質管理:品質を守ること、仕組みづくり
- 企画開発:情報収集・精査する力、コスト意識など
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