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WHO(世界保健機構)では、総人口における65歳以上の高齢者の割合が14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢社会」と定義しています。
日本は2007年に「超高齢社会」に突入。今後も高齢化率の増加は進み、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2024年には65歳以上の人口が30%に達するという予測もあります。一方で出生率は2005年に過去最低を記録し、その後微増は続いているものの0歳以上15歳未満の年少人口比率は低下しており、文字通り「少子高齢社会」となっています。
今回は、この「超少子高齢社会」がもたらす課題とその対応、そしてこうした社会で必要とされる力について考えてみましょう。
超少子高齢社会の現状と問題点
日本では、1970年代には年間200万人以上の子どもが生まれていましたが、その後は減少に転じ、2016年から現在に至るまでの出生数は年間100万人を切っています。15歳未満の年少人口は、今後もさらなる減少が予測されています。
一方で、65歳以上の高齢者人口は、医学や医療技術の発展などにより死亡率が低下し、平均寿命が延びたことで増加しています。国内の生産活動の中心の労働力となる15歳以上65歳未満の生産年齢人口は、1995年にピークを迎えた後は減少に転じ、2019年には総人口の59.5%となっています。
生産年齢人口が減るということは、働き手が少なくなるということです。働き手が少なくなると企業活動を維持することが難しくなります。設備などへの投資が縮小されることで、技術革新による新たな商品サービス開発の機会が失われ、経済成長に悪影響を及ぼします。働き手不足を補うために長時間労働や過重労働が深刻化し、ワークライフバランスが崩れることでさらに少子化が進むのではないか、といった指摘もあります。
また、生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加という年齢構成比の変化は、社会保障制度にも課題をもたらします。制度を支える現役世代の割合が、高齢者一人当たりに対して少なくなるからです。1950年には「65歳以上の高齢者1人に対し、現役世代は12.1人」いましたが、2015年には「高齢者1人に対し、現役世代は2.3人」となりました。2065年には「現役世代1.3人で1人の高齢者を支える」社会、つまり現役世代の負担がより大きくなる社会になると予測されています。
このように超少子高齢社会では、生産年齢人口の減少による経済活動へのマイナス影響や、社会保障における現役世代の負担の増加により、経済成長に大きなブレーキがかかると予測されています。こうした行き詰まりを打破するために打ち出されたのが「働き方改革」です。
※本文内の数値は、内閣府「高齢社会白書(令和2年版)」を参照しています。
働き方改革とは
2016年、日本政府は「働き方改革実現会議」を発足し、2018年6月には「働き方改革関連法」が成立、2019年4月から順次施行が始まりました。目的は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働き手のニーズの多様化」といった問題に対応することです。投資やイノベーションにより生産性向上を図るとともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることで、さまざまな立場の方が就労し、活躍し続けられる社会を実現させることを目指しています。
労働人口を増やすためには、働く意欲や能力があるのに、環境が整っていないために働き手になれなかったり、離職せざるを得なかったりするケースへの対策が必要です。こういった現状の背景には過度の時間外労働による過重労働や、出産・育児、家族の看病・介護、自身の怪我や病気など多様な事情が存在します。
そこで、こうした状況に対応するために、労働時間法制の見直しや、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保に向けたさまざまな取り組みが始まっています。
企業のさまざまな取り組み例
・有休の取得支援や長時間残業の撤廃
・男性の育児休暇の取得支援
・育休明けの社員のフォロー体制を確立
・定年延長をして高齢者の経験を生かせるような仕事の創出
・家族の介護や看病などで気兼ねなく休みが取れる制度の制定
働き方改革を促進するため、職場の労働時間や労働人口の減少に対しては、ICTなどのテクノロジーや設備投資で生産性を向上させることも期待されます。中小企業でも助成金の制度を活用し、設備投資することが可能です。ある工場では、軽量で扱いやすい機械加工具に設備投資することで、これまで力のある男性にしかできなかった作業を女性や高齢者でも行えるようにし、採用活動や労働力獲得に劇的な変化をもたらしました。
また、2020年には新型コロナ感染防止対策として、遠隔でのコミュニケーションツールの活用やテレワークの導入が進むなど、オフィスへの出勤を前提としない就業スタイルも広がりました。まだまだ課題は多いですが、働き方を変えていく取り組みはすでに始まっています。
人生100年時代
ここまで少子高齢社会の課題について整理してきました。ここからは少子高齢社会を生きる主体として今後必要になると思われる考え方や姿勢について触れてみましょう。
「人生100年時代」とは、2016年に刊行された『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(著者:ロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/東洋経済新報社)の中で提唱された言葉です。その中で、海外の研究によると、2007年に日本で生まれた子どもの半数が、107歳より長く生きると推計されています。つまり、65歳以上の「高齢者」となったあとも40年以上生きる時代だということです。
これまでは「80年の人生」を前提とした「教育20年→仕事40年→引退後20年」というライフプランの考え方が主流でした。「人生100年時代」では、これよりもライフプランの想定が20年長くなります。働き方改革などの取り組みもあり、高齢者も長く就業する時代になります。健康を維持しながらできるだけ長く、ライフイベントに合わせて仕事をし、ずっと学び続ける「マルチステージ」型の生き方になるのです。
マルチステージ型の「資産」とは、これまでのような物質的な「有形資産」だけを意味するのではなく、スキル・健康・人間関係といった非物質的な「無形資産」をも含めたものです。この「無形資産」をどう築き、どのように生かしながら活躍し続けるかが重要です。
生涯を通じて学ぶ
少子高齢化が進む現代社会。「人生100年」を生きる主体として、「無形資産」を育んでいくためにどのような姿勢が必要でしょうか。
就職し年次を重ねれば要職に就くことができ、年齢に合わせて給与が上がっていく、「年功序列」の時代ではなくなりました。かつては、新卒で入社した会社に定年まで勤めるケースも多くありましたが、現在では転職やキャリアチェンジも珍しくありません。言い換えれば企業が働き手の面倒を見続けるのではなく、働き手が自分の意志で活躍の場を選択する社会になったのです。
また、ICTの普及が仕事の進め方に急速な変化をもたらしているように、技術革新が日々進展し、働く環境もめまぐるしく変化しています。
こうした社会で「人生100年」を活躍し続けるために、生涯にわたって学び、スキルを身につけていく必要があるのです。これから皆さんには、よい時もあればそうでない時もあります。予期せぬ嬉しい出来事もあれば、つらい出来事もあるでしょう。そのとき、現実に起こった事象を変えることはできません。
しかし自分自身が変化に合わせて柔軟に対応することはできます。「無形資産」、つまり学ぶ意欲と学ぶ姿勢、積み上げてきた経験やスキル、そして健康、豊かな人間関係があれば、ライフイベントに合わせて働き方を変え、何歳になっても自分らしく働き、社会でいきいきと活躍することができます。
まとめ
「人生80年時代」には老後を安心して過ごすための資金や財産といった「有形資産」をいかに形成するかが関心事でした。今後はこれに加え、人生を豊かにする「無形資産」を育むことが重要です。そうすることで「人生100年時代」を主体的に生き、「少子高齢社会」を支える側として長く活躍していくことができます。
そのために大学生の今からできることがあります。日々アンテナを張って情報収集し、自分にとって必要そうだと思ったことにはフットワーク軽く、まずトライしてみることです。指示されることだけでなく、自ら学びを広げていく態度が、大学生のうちに身につけておける「学ぶ姿勢」であり、社会に出てから必要となる力の素地となります。大学の学びで得られるのは、学問の内容だけではなく「学び方」でもあるのです。
参考
経済産業省「人生100年時代」を踏まえた「社会人基礎力」の見直しについて
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