20代の人が「働く」をどのように捉えているか知っていますか?
本記事は、企業側が抱える採用課題や、20代の「働く」に対する意識調査の結果をご紹介。パーソル総合研究所が2017年から毎年実施した調査データ「働く10,000人の就業・成長定点調査」の過去5年間(2019~2013年)分の結果を基に、児島研究員が執筆したコラムを転載しています。
自分が「社会に出て働く意味とは?」「目指したい姿とは?」といった、働くを俯瞰(ふかん)して考えるきっかけに役立てていただけると幸いです。
転載原稿の執筆者
研究員
児島 功和さん
日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。
転載元:20代の若者は働くことをどう捉えているのか?仕事選び・転職・感情の観点から探る
目次
企業が採用で抱える課題
「人手不足に対する企業の動向調査」[注1]によると、2023年1月時点で人手不足を感じている企業の割合は、正社員でおよそ5割、非正社員でも3割に達しています。
新卒一括採用が続く中、若者を安定的に採用し、早期離職を防ぎ、いかに育成するかは、企業の持続的成長にとって外せない課題となっています[注2]。
20代が重視するのは「働きやすく成長できる」職場
20代の若者は「仕事を選ぶ上で何を重視しているか?」を見たのが図表1です。2019年から2023年の間に、上下5ポイント以上の変化があった項目を赤と紺で強調しています。
■調査データから浮かび上がってきたこと
- 職場の人間関係のよさ、仕事とプライベートのバランス、休みのとりやすさなどの「働きやすさ」に関する項目の肯定率が低下傾向
- 一方、知識やスキルの獲得といった「成長」に関する項目の肯定率は上昇傾向
- 結論、「働きやすい職場」だけではなく、この数年間で「成長できる仕事」を求めるようになったといえる
「働きやすさ」に関する項目の肯定率は低下傾向でありつつも、他の項目よりは高い状況であることから、20代の若者は「働きやすい職場」だけではなく、この数年間で「成長できる仕事」を求めるようになったと考察。
これは、2022年までの本調査結果を基にしたコラム「20代若手社員の成長意識の変化―在宅勤務下の育成強化も急がれる」でも紹介されており、2023年も同様の傾向が続いているといえます。
ハイパフォーマーとローパフォーマーで価値観に差はあるか?
続いて、20代の若者をジョブパフォーマンス別[注3]に見た場合を見てみましょう。
2019年から2023年の間に5ポイント以上の変化があった「働きやすさ」「成長」に関する項目だけを取り出したのが図表2です。
■調査データから浮かび上がってきたこと
- ハイパフォーマーの若者は、ローパフォーマーの若者よりも「働きやすさ」や「成長」を重視する割合が高い
- ほとんどの設問について、ハイパフォーマーは仕事を選ぶ上で重視することとして肯定的に回答
- ハイパフォーマーの若者は、この職場では「成長できない」「働きづらい」と感じれば、早々に離職を選択するのではないと考察
この結果は、ハイパフォーマーの仕事や職場に対する期待値がそれだけ高いということを意味しているといえるでしょう。
続いて、20代の若者が「転職」についてどう考えているか、世代ごとの価値観の差も交えつつ見ていきましょう。
世代間の転職に対する肯定感にギャップ
図表3は、20代から50代までの世代別に、転職に対する肯定感を表したものです。
このグラフから浮かびあがってくるのは、全般的に転職に対して肯定的な傾向が強まっていることです。また、転職に対する世代間ギャップが緩やかに縮小しているものの、依然として世代間ギャップは残っている点にも注目したいところでしょう。
転職を積極的に肯定する若者と、そこまでは積極的に捉えていない上の世代とのギャップがあります。
20代の転職・独立意向は?
しかし、興味深いことに、20代の若者は転職に対して積極的に捉えながらも、現在の勤務先をすぐに辞めようとは思ってはいません(図表4)。
20代では「継続して働きたい」と「他の会社に転職したい」という回答割合がほぼ同じになっています。20代の若者は現在の職場で働き続けたいと思っていますが、転職や独立・企業も視野に入れている状況です。一方で、上の世代は年代が上がるほど、今の職場でそのまま働き続けたいと考える割合が高くなっています。
■調査データから浮かび上がってきたこと
- 20代の若者は転職に対して積極的に捉えながらも、現在の勤務先をすぐに辞めようとは思ってはいない
- 20代の若者は現在の職場で働き続けたいと思っていますが、転職や独立・企業も視野に入れている状況
- 年代が上がるほど、今の職場でそのまま働き続けたいと考える割合が高くなっている
「働きやすさ」に関する項目の肯定率は低下傾向でありつつも、他の項目よりは高い状況であることから、20代の若者は「働きやすい職場」だけではなく、この数年間で「成長できる仕事」を求めるようになったと考察。
ハイパフォーマーの転職意識
続いて、20代のハイパフォーマーの若者が転職に対してどう考えているのかをご紹介します。(図表5)
■調査データから浮かび上がってきたこと
- ハイパフォーマーの若者は「他の会社に転職したい」「独立・起業したい」と考える割合が最も高い
- 同時に「継続して働きたい」と考える割合も最も高い
- 他の会社でも「勝負」をしたいと考えている様子が伺える
高いパフォーマンスを発揮できている今の職場に居心地のよさを感じながらも、高いパフォーマンスを発揮できているがゆえに、他の会社でも「勝負」をしたいと考えている様子が伺えます。
仕事に対する幸せ度は…
最後に、20代の若者が仕事を通じてどのような感情を抱いているのかを見たところ、特にネガティブな感情に特徴が見られました(図表6)。
「私は、はたらくことを通じて、不幸せを感じている」に対する回答です。20代の若者の数値が最も高くなっており、50代とは10ポイント以上の差があります。20代の若者は精神的なつらさを抱えながら働いているのです[注4]。
以下は、20代の若者のネガティブな感情をジョブパフォーマンス別に示したのが図表7です。ハイパフォーマーの若者は、ミドルパフォーマー、ローパフォーマーの若者以上に働くことを通じて不幸せな感情を抱いていることが分かります。
こうした仕事で抱くネガティブな感情は 「もっと早く仕事ができるようになりたい」という「成長」志向が背景にあるのではないかと考察します。しかし、ネガティブな感情の高まりはジョブパフォーマンスの低下や休職・早期離職に繋がる可能性があります。
近年、従業員の健康増進が経営的にも重要であるとの議論がなされていますが、今回の調査結果はそうした動きを後押しするものと言えるでしょう[注5]。
企業側の課題は、若者の働きやすい環境の確保
本コラムでは、「働く10,000人の就業・成長定点調査」2023年度の結果に基づき、20代若年就業者(民間企業正社員)の「仕事選びの重視点」「転職への捉え方」「仕事に抱く感情」に着目し、早期離職を食い止めるための示唆を得ることを目指したものです。
本コラムのポイントは次の通りです。
・20代の若年就業者は上の世代と比べると転職に対して肯定的イメージを持っており、他の会社に転職したいと考えている割合も高い。特にハイパフォーマーの若年就業者がそうであるが、現在の勤務先で働き続けることも肯定的に捉えている
・20代の若年就業者は上の世代と比べると転職に対して肯定的イメージを持っており、他の会社に転職したいと考えている割合も高い。特にハイパフォーマーの若年就業者がそうであるが、現在の勤務先で働き続けることも肯定的に捉えている
・20代の若年就業者は上の世代よりも働くことを通じて不幸せを実感している割合が高かった。そして、ハイパフォーマーの若者はミドルパフォーマー、ローパフォーマーの若者よりもそうしたネガティブな感情を感じている割合が高い。こうしたネガティブの感情の高まりは、休職や早期離職に繋がる可能性がある
転職を肯定し視野に入れている20代の若者ですが、必ずしも「現在の職場で働きつづけたくないと思っているわけではない」と、上の世代が認識することも重要だと言えます。
メンタルヘルスに注目し、ネガティブな感情を抱えながら働いている若者(特にハイパフォーマーの若者)をどう支えるかは喫緊の課題になっているといえるでしょう。
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注1:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p230207.html(2023年7月26日アクセス)。
注2:「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)の施行(2015年10月)により、事業主に対して若者の雇用促進、職業能力の開発、職場への定着等が求められるようになったことも企業と若者の関係を考えるうえで重要である。 注3:「任された役割を果たしている」「担当業務の責任を果たしている」「仕事でパフォーマンスを発揮している」「会社から求められる仕事の成果を出している」「仕事の評価に直接影響する活動には関与している」に対する五件法の回答のうち「あてはまる」を5点~「あてはまらない」を1点とし、上記設問を「ジョブパフォーマンス」を示す変数として統合した(α係数は0.828)。その上で、得点の高さに応じて「ハイパフォーマー」「ミドルパフォーマー」「ローパフォーマー」に三分割した。 注4:高見具広も調査結果に基づき、「若年層や主任~課長代理相当職クラスで、心理的ストレス反応など、メンタルヘルスに何かしらの問題を抱える割合が大きい」と指摘している(「働き方が変化する中での健康確保の課題」第126回労働政策フォーラム)https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20230320/index.html(2023年7月26日アクセス)。 注5:経済産業省「健康経営」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html(2023年7月26日アクセス)。 |
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