プロフィール
企画名:Shareshelf 〜教科書を“資源”に〜
慶應義塾大学 経済学部 2年
松本 陸大 さん、古田 剛士 さん
※本記事は「キャリアゲートウェイ2025-アイデアコンペティション」の受賞者インタビュー記事です。
本コンペは、「大学低学年のうちに実践的な経験を経て、さらに学びや経験を深めてほしい」という考えのもと、大学1,2年生を対象に腕試しと成長機会を提供するべく開催されました。
「SDGs課題をアプリで解決」をテーマに、興味のあるSDGs課題を選択し、解決策を提案。多くの素晴らしい企画の中から、最優秀賞(1組)、優秀賞(2組)、企業賞(15組)、審査員特別賞(2組)の計20組が表彰を受けました。
この記事では、受賞企画の内容から、ビジコン参加の理由や参加によって得られた経験まで、受賞者の声をお届けします。
大学で学んだ専門分野の知識を実践で役立ててみたかった
——「キャリアゲートウェイ2025-アイデアコンペティション(ビジコン)」に出場したきっかけを教えてください。
古田さん:大学に入学してサークル活動などにも打ち込んでいたのですが、これまで自分が得意だったことの延長線上で過ごしているという実感がありました。自分が勉強していることを活かしつつ、主体性を持って未知の領域に足を踏み出してみたい。そう考えたことが今回のビジコンに参加したきっかけです。何かに挑戦してみるのであれば自分のことだけでなく、社会のためになることをしたいと思ったことも強い動機になりました。
松本さん:私は大学で計量経済学という分野を専攻しており、データを用いて社会の問題点を整理するための力を身につけてきました。しかし、理論上で分析できたことであっても、それを実践に役立てるところにまでは辿り着けていませんでした。そこで、課題分析からアプリの実装による解決まで考えられる今回のビジコンに参加し、データ分析と社会を接続できるような企画を考えたいと思いました。
——ビジコンで発表したアプリの内容について教えてください。
松本さん:私たちが発表したのは、学内限定の教科書譲渡アプリ「Shareshelf」です。大学で専門的な学びを得るためには不可欠な教科書ですが、学生にとっては高額なものもあり、新品を買うことには経済的負担が伴います。それを突き詰めれば、教科書を手に入れられないことが学びの平等性を損なっているという本質的な問題に行き当たります。実際、私たちも高額な教科書を購入できずに授業で苦労したという経験がありました。一方で、教科書は短期間で役目を終えるものも多く、大量廃棄によって資源が浪費されている側面もあります。こうした身近な課題に着目し、フリーマーケットアプリのように学内で教科書を循環させる仕組みをつくりたいと思いました。
古田さん:一般的なフリーマーケットアプリと大きく異なる特徴のひとつとして、お金を使わない“コストゼロ”の取引を実現できる点が挙げられます。教科書を譲った側の学生には、インセンティブとして大学生協などで活用できるポイントが付与されます。売却した場合よりも利益はやや劣ってしまうのですが、3回に1回の確率でポイントを高くする“ゲーム性”を取り入れることで出品する意欲を促進します。これは行動経済学の知見に基づいて考案した機能でした。
運営側・大学生協・学生にとって 「三方良し」のビジネスを目指した
——今回の企画を考えるうえで苦労したことは?
古田さん:このアプリを実装するにあたって懸念されるのは、新品の教科書を販売している大学生協との衝突です。無料で教科書を手に入れられる仕組みが導入されれば、当然ながら大学生協の売り上げは減少してしまいます。しかし、アプリ内でポイントを付与すれば、学生の購買意欲を高める「呼び水効果」が期待できますし、ポイントと現金を併用する「差額決済」の形をとることで売り上げ単価の向上にも貢献することができます。衝突するのではなく共存していくために、運営側・大学生協・学生にとって「三方良し」のビジネスモデルを構築することにはこだわりました。
松本さん:学内だけで完結できる仕組みもアピールポイントのひとつだと考えています。一般的なフリーマーケットアプリでは知らない人とやり取りする必要があり、そこに約9割の学生が不安を感じているということがアンケート調査を通じて明らかになりました。その点、学内限定の「Shareshelf」は安全の保証されたプラットフォームとして運用することができます。また、アプリの複雑さがユーザーの心理的負担につながると考え、機能を単純化することも意識しました。眠っていた教科書が自然に循環していくような仕組みをつくりたかったんです。
——プレゼンテーションにおいて意識したことはありますか?
松本さん:企画の背景やアプリの仕様、マネタイズの仕組みなど、伝えたい情報はたくさんありましたが、限られた時間の中で完璧に説明することは難しいと理解していました。そこで、何を話して何をスライドで見せるのか取捨選択し、なるべく内容が感覚的に伝わるようなプレゼンテーションを心がけました。
古田さん:プレゼンテーションを通じて自分たちの思いが明確に伝わり、企業の方から「自分が学生だったら絶対に使いたかった」というコメントをもらうことができました。実際に学生が使うところまで想像しながらシンプルな仕組みを追求したので、その言葉をいただけたことが非常に嬉しかったです。また、法学部の参加者の方から、「毎年改訂される六法全書を買うのが大変だ」という話を聞けたことも印象的でした。自分たちにとって身近な課題から出発したアイデアだからこそ、学部を問わず大学生ならではの悩みを共有できたのだと思っています。
——今回のビジコンに参加してよかったと思うこと、学べたと思うことは?
古田さん:もともとは社会に貢献できる公共性の高い企画を考えたいと思って参加しましたが、それだけではビジネスとして継続することが難しいと分かったことは大きな学びでした。学生が教科書を無料で手に入れられるようになり、紙資源の消費も削減することができる。これは社会貢献のアイデアとしては理想的ですが、現実的に運用するためには経済的な基盤や関係者の理解が不可欠になります。単に課題を解決するだけでなく、俯瞰的な立場から物事を考えることの重要性を知りました。
松本さん:これまで理論的なデータ分析に取り組んできた自分にとって、人の動きまで意識しながらアイデアを形にしていく作業は非常に刺激的でした。例えば、私は大学で教育格差と所得格差の相関を分析したのですが、両者が関係しているという結果は得られたものの、そこで終わってしまっていました。今回のビジコンを通じ、データ分析で得られた結果をもとに解決策を考える面白さに触れると同時に、その難しさも経験できたことが学びにつながったと実感しています。
身近にある小さな違和感を言語化するところから始まる
——この経験をこれからの大学生活でどのように活かしたいですか?
古田さん:物事を多角的な視点から捉える考え方は大切にしていきたいです。私はアルバイトで塾講師をしており、個人としては生徒や保護者のニーズにすべて応えたいと考えています。しかし今回の企画を考えていく中で、生徒たちの学びの場である塾が健全に経営を続けていくためには、利益や法律といった多様な観点に配慮する必要があると強く認識しました。複数のステークホルダーの利害をしっかりと意識しながら、生徒の成長を最大化するにはどうすればいいのか。こうした課題解決に向け、学生と企業という双方の立場から企画を練ったビジコンでの経験を活かしていこうと思っています。また、将来的には公共の利益に貢献できるような仕事に就くことを目指しているので、今後は経済学の勉強にも新しい視点を取り入れてさらに学びを深めたいと考えています。
松本さん:データ分析は社会に実装して初めて価値を生み出せるということを実感しています。ビジコンで得た視座を土台にして、社会課題を現実的な形で解決できるような人材になりたいと思います。また、プレゼンテーションを通じてアイデアを伝え合ったことで、多様な人と話してみたいという思いがいっそう強まりました。私はスイスに留学するのですが、異なる立場の方々とコミュニケーションする際にも今回の経験を役立てたいと思います。
——最後に、ビジコンに興味を持つ学生にメッセージをお願いします。
松本さん:「ビジコン」と聞くと、最初から完成度の高いアイデアが求められると思っている人も多いと思います。しかし、今回のビジコンに参加して自分が何より大切だと感じたのは、社会に対して抱いている違和感をとにかく言語化してみることでした。参加のハードルが低いので、最初は身近な違和感さえあれば問題ありません。それをきっかけにして言語化し、仕組みを考えていく。その過程で出会った他の参加者や企業の方々が、人生の転換点をもたらしてくれるかもしれません。あまり難しく考えすぎず、自分の経験のひとつとしてはじめの一歩を踏み出していただけたらと思います。
古田さん:きっと皆さんも生活の中で、「不便だな」と感じる瞬間があると思います。今回のビジコンは複数の視点から課題を掘り下げる経験であり、さまざまな立場の利害を一致させていくパズル的なところに面白さを感じました。自分だけでなく、より多くの人々の幸福度を最大化させる手法を考えるために、楽しみながらチャレンジしてもらいたいと思います。
※掲載情報は2026年3月時点の内容です。
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